2004年7月期


梅雨で蒸し暑く、厨房に入って居られる方々には辛い季節になりました。
僕も、以前球場の売店で鉄板の前でバイトをしてたので抵抗出来ない暑さを経験しました。
球場は野球試合中ずっとお客さんが並ぶので、焼いても焼いても一撃で無くなる・・・。
油が煙になっている熱い鉄板の前で意識朦朧としながら働いたのを思い出します。
球場は特別かも知れませんが(笑)

さて今回の特集は、青鋼です。以前「鋼のうんちく」で特集しましたが、あれから時も経ち知識も増えた
ので、もっと突っ込んだ内容の青鋼特集です。


青鋼のすべて!

刃物鋼材として高いランクに位置する素材「青鋼」正式名称は「青紙」。
これについて、詳しく特集したいと思います。
何故「青紙」と言うか!ですが、製造した時に素材を見分ける為に付けた紙が青だった・・。
嘘か本当かわかりませんが、そうらしいです。もし赤色だったら。。赤鋼だったのかも!

青紙には、「青一鋼」「青ニ鋼」「青紙スーパー」があります。
青一と青ニにはABが存在し、刃物鋼として使用される青紙系は全部で5種類です。

青紙とは、不純物の少ない白紙にタングステン、クロムを入れて造られた合金です。
ですから刃物用として人間が造り出した鋼です。理想の刃物は、切れ味が良くその切れ味が
永く続く刃物で、更に研ぐ際に楽ならば嬉しい限りです。その理想を目指して造られたのが
青紙だと勝手に認識しています。

次ぎに青一鋼、青二鋼に存在するAとBの違いです。
Aは硬口刃物を造る時に使用される鋼材です。Bは甘口刃物を造る時に使用されます。
これは、AとBの炭素量に違いがあります。炭素量が多い程硬く焼きが入ります。
A、B共に炭素量以外はすべて同じ構成なので、ABの差は炭素量の違いだけです。
硬い=切れ味が良い しかし、錆び易い事や欠けにも注意が必要になります。

青鋼の場合、クロムやタングステンのお陰で、基本的に粘りや耐磨耗性あるので、白鋼より
も欠けの心配や、刃のへたりを気にする事はが少ないと思いますが究極の話、炭素量によって
生じる事は、この錆びと欠けの2点です。

AとBはハッキリ言って、目では確認する事は出来ません。使って感じる、研いで感じる事しか
出来ません。また、焼入れ温度や焼戻し温度で硬さなどが変化しますので、鍛冶屋さんによって
は、AがBのような硬度になる場合もあります。ちなみに土井さんの工場で見た青ニ鋼はBでした。
本刃付けした感想では、硬いです! Bは甘口刃物で・・っと言いましたが、一概にそうでは無い
事も理解してください。でももし、土井さんがAで打ったら・・(ワクワク)

刃物鋼材の位置付け表です。日立金属株式会社が公表しているデータです。

 


「青一鋼(青紙1号)AB」
青一鋼基本的情報として、炭素量が多い事と、クロム、タングステンが青ニ鋼よりも多く入っています。
その為、青二鋼よりも高価になります。硬く、粘りがあり、耐磨耗性に優れた素材です。
一般的に青鋼系で最高峰を求めるならば、青一鋼が良いと思います。
注意は、クロムが多く入っている為に滑る感覚が生まれるかも知れません。
これの解消法は、少々荒めの仕上げ砥を使用する事で解消できます。
8000番ならば6000番に番手を落とす事で、噛むような切れ味が出ます。 
しかし腕のある方ならば、例え10000番で研ぎ上げて滑るような感覚でも、食材を上手く切ります。 
何故そうするのか!鋭く切れた方が良いのでは?? っとなりますが、
鋭い感覚が生まれる=刃先の鋸刃が粗いと言えます。もちろん荒い鋸刃で切りに行く訳ですから、
切り口が粗くなります。確かに刺身などを切る効率は落ちますが、角が立って切り口が照ると言った
日本料理の基本を演出できます。
 青紙1号化学成分  %
炭素 ケイ素 マンガン リン 硫黄 クロム タングステン モリブデン
 A  1.30〜1.40 0.10〜0.20 0.20〜0.30 0.025以下 0.004以下 0.30〜0.50 1.50〜2.00  
 B 1.20〜1.30 0.10〜0.20 0.20〜0.30 0.025以下 0.004以下 0.30〜0.50 1.50〜2.00  

リン、硫黄は、切れ味に悪影響を及ぼす化学成分で、日立金属さんは厳しく制限しているようです。


青紙1号Aとは!

炭素量が全体の1.30%〜1.40%入った青紙鋼です。硬く焼が入る為、青二鋼よりも鋭い切れ味が
得られます。ただし硬い為に、青二鋼よりも研ぎにくく錆びが出易い可能性があります。
理論上からも大変良く切れて、切れ味も長持ちする素材と言えます。

青紙1号Bとは!
炭素量が全体の1.20%〜1.30%入った青紙鋼です。青一よりも硬度は少し落ちますが青ニ鋼よりも
良い切れ味が味わえます。硬度が幾分落ちる為に甘い感じになります。一般的に青紙1号を購入されると
こちらのBになります。 どちらかと言うと扱いやすい方はBなのかも知れません。


「青ニ鋼(青紙2号)AB」
青二鋼基本情報としては、青一鋼よりも炭素量が低くクロム、タングステンも青一よりも低くなっています。
青一鋼よりも価格は安いですが、硬さや粘り、切れ味持続では青一に1歩譲ります。
しかし、とても扱いやすい青鋼の代表格的存在ですので、青鋼入門には最適ではないでしょうか!
青鋼を評価する上で、僕は青ニ鋼のBを基準に考えています。
 青紙2号化学成分  %
炭素 ケイ素 マンガン リン 硫黄 クロム タングステン モリブデン
 A  1.10〜1.20 0.10〜0.20 0.20〜0.30 0.025以下 0.004以下 0.20〜0.50 1.00〜1.50  
 B 1.00〜1.10 0.10〜0.20 0.20〜0.30 0.025以下 0.004以下 0.20〜0.50 1.00〜1.50  

リン、硫黄は、切れ味に悪影響を及ぼす化学成分で、日立金属さんは厳しく制限しているようです。

青紙2号Aとは!
炭素量が全体の1.10%〜1.20%入った青紙鋼です。青一鋼の炭素量を比べれば解るように、
青二鋼の方が硬度的に低い鋼と言えます。しかし、一般的に市場に出ている青ニ鋼は、Aの可能
性は低いです。例えAの鋼材で包丁を製造しても、製造段階で炭素が抜ける(脱炭)を起こせばB
並かそれ以下の素材になってしまうかも知れません。

青紙2号Bとは!
炭素量が全体の1.00%〜1.10%入った青紙鋼です。この青紙2号が青二鋼の代表格で、最も
多く生産されていると思います。製造側からも青紙2号Bは、熱処理などがしやすく青ニ鋼の焼き入
れ温度基準になって居るからだと思います。職人さんの感覚がBで慣れているからと言う考え方も
出来ます!!炭素量が変わると、多少ですが焼き入れ温度が変わったり焼戻し温度などが変わり
ます。その差が、完成した包丁を大きく左右します。包丁は生まれが大切ですから!!


「青紙スーパー」
炭素量が全体の1.40%〜1.50%入った青紙鋼です。クロム、タングステンは青一鋼と同量ですが、
炭素量が高いのと、モリブデンとバナジウムが入っています。
クロム以上にモリブデンは粘りを出す効果があり、この粘りは切れ味の持続の要因になります。
また、バナジウムが耐摩擦力に優れていて硬く屈折の少ない鋼材を造る要因になります。
っと言う事は、砥ぐ回数が減るのと、硬く粘りがあるので研いでも包丁が減らないと言った物が完成します。
表鏡面、裏鏡面にしてしまえば、錆びにも強くなり、かなり永く使える包丁が完成します。
「ええやん!包丁買い換えなくていいなんて!」っと言う事になるのですが、短所もあります。
上記に書いた長所(切れ味が永く続く、硬いので鋭い、包丁が減らない!)を逆手に取ると!
仮に、欠けた場合手で研ぎ治すのに苦労する!この素材で本焼などを欠かせば治すのに苦労するのは
必然です。硬くて包丁が減らないと言う素晴らしいメリットが、欠けた瞬間・・・・。あなたの体力を蝕みます(笑)
本刃付けするにも苦労すると思います。仮にハマグリにしよう!っと思っても、通常の倍以上の時間が必要
かも知れません! 一応そういった事も頭に入れておくと、セールストークに引っ掛からないで済むかも知れま
せんね!これを理解した上で購入するのならばOKです。事実、良く切れる刃物鋼材に間違いはありません!
料理包丁よりもナイフ向けかも知れませんね!
 青紙スーパー 化学成分  %
炭素 ケイ素 マンガン リン 硫黄 クロム タングステン モリブデン
 SP  1.20〜1.40 0.10〜0.20 0.20〜0.30 0.025以下 0.004以下 0.20〜0.50 1.00〜1.50  

リン、硫黄は、切れ味に悪影響を及ぼす化学成分で、日立金属さんは厳しく制限しているようです。


青鋼総まとめ!
青鋼の種類を色々と説明してきましたが、普通の人?普通の調理師さんは「青二鋼B」で十分に青鋼を楽しむ
事が出来ると思います。事実、青鋼がメインで売れているのは「青二鋼」がダントツです。ちょっと踏み込んで
青一鋼にグレードUPするのも良いですが、個々に示したデメリットなどを理解し、それらを踏まえた上で青一鋼
のメリットを最大限に引き出す事で、より青鋼を自分の武器(道具)として活用できると思います。
基本的に、今回は青鋼を鍛造仕様(霞仕様)にした場合を想定して、色々と特集しました。
本焼の場合も変わり無いと思いますが、本焼になると硬く感じる事もご理解下さい。

補足:本焼にすると、すべて鋼で構成されるので研ぐ時に大変になります。鍛造の場合、軟鉄があるので研ぎが
    楽に感じます。理論上、鍛造の方が硬く焼き入れ出来る(硬度を高く出来る)要素が整っています。
    なぜなら、軟鉄が多少の衝撃を和らげてくれるからです。ただし、職人によっては軟鉄を硬くする技術を
    持った方も居られます。 硬質軟鉄ってのもありますし・・・。 そんな事を言い出すと答えが出ないですが
    一応総合知識として掲載します。

下記に、青鋼の作業工程などを少々つけ加えましたので、ご覧下さい。


青鋼の火造りについて!
包丁にする為に、炉に入れてバシバシ叩いて包丁にします。
この時、真っ赤にした方が鋼がアメの様になり早く包丁の形成が出来ると共にキズが少なくなりますが、
温度を上げると鋼の炭素が空気中の酸素と結合して鋼から炭素が抜けてしまいます。
そうすると、脱炭して良い包丁にはなりません!パサパサの包丁になってしまいます。
その為に包丁形成や鍛接に時間が必要ですが、ゆっくり製造する事で良い包丁になります。

鍛冶屋工程での青鋼は、温度に最も神経を使う素材のようです。上げていい温度(最高温度)が低く
それを超えると、ボロボロになってしまうのが青鋼です。とてもデリケートな素材と言えます。
日立金属さんの公式DATAでは、白鋼よりも「焼き入れ、焼きなまし、焼戻し」の温度が高く表示されて
いますが、現場の意見(土井敬次郎氏&土井逸夫氏)の意見では、デリケートな素材と言う事です。
この辺りが、永年受け継がれた伝統的な技術と経験から生まれる意見だと思います。

焼き入れについて!
包丁になる為には焼き入れが必要です。ここでも脱炭の危険が潜んでいます。
青ニ鋼の焼き入れ最良温度は780℃〜830℃辺りです。この50℃の間で焼き入れを行います。
もちろん780℃で焼き入れが出来れば完璧なのですが、毎回温度計で温度を測りながら焼入れは
鍛冶屋さんはしません!目で見て鉄の色を見て焼き入れをします。この色を見る目も鍛冶屋の腕の
見せ所です。焼き入れには、松炭が使用されますが、これは松炭自体に炭素が含まれているので、
少しでも脱炭を防ぐ事に一役買っています。こんな所にも神経を使う事で良い包丁が出来ます。
(火造りにもコークスを使用して脱炭を防ぐ対策がなされています)
780℃が最良っと言う意味は、低い温度で処理する事で脱炭を少しでも防ぐと言う理念です。
750℃くらいでも焼きは入ると土井さんは言っていたような記憶が。。。日立の資料には、
780℃から・・・っと記載されていました。おそらく温度が少し高めの方が確実に焼きが入るか
らでしょう! しかし、伝統的に受け継がれた職人の勘や経験で、定められた温度以下で処理する
事が可能なのかも知れません。 この型破り?な感じが職人っと言う職業かも知れません。
ただ単に包丁を造るだけなら、作業員って言っても良い感じですよね!!

裏! コークスや松炭を使うとススが出たり、仕事場が汚れたり、コークス費用、松炭費用が必要
   な為、電気炉を使用している所があります。コイル型の熱線の中に包丁を入れて赤めて焼き入
   れしてしまう所もあります! まあ情報として!!!!

青鋼焼戻しについて
焼き入れ後、再び包丁を暖めて自然に空冷で冷やします。
この作業で鋼に粘りを引き出して欠けにくい素材に鋼を変化させます。この時の熱する温度が
約180℃〜200℃です。基準は180℃ですが、より研ぎ易く粘りを出す為に200℃で戻
す事があります。焼戻しの際に暖めるのですが、この時の温度が高いほどしっかり焼が戻り硬度
が落ちます。 この辺りは、鍛冶屋さんの特徴がモロに出る部分です。170℃で2時間かけて
じっくり焼戻しをする所もあります! これも経験的な話で、鋼内部の分子が早く落ちつきます。
そうすると、歪みが非常に出にくい地(包丁本体)になります。

こんな事する人は居ないと思いますが、包丁の締まりを見る時に包丁の焼きを完全に戻すと言う
裏技?があります。包丁を180℃強の油(サラダ油!)で揚げてやるのです!締まって無い包丁は、
グィ〜っと裏か表かに曲がります。これをしたら包丁として使えないのでしないで下さい。
なんでサラダ油やねん!油に秘密が??っと思うかも知れませんが、単に温度が安定するからです。
火で炙って、「ん〜180℃!」っと解れば凄い事です。 

そう!鉄板の温度を調べるのに最適な方法を公開します!焼きそば、たこ焼き、回転焼などの鉄板で
180℃を見極める方法は、水滴を鉄板に垂らして球系にコロコロっとなれば180℃です。
必要か不必要か解りませんが、僕の雑学知識ハードディスクからの情報提供です(笑)


青鋼の焼なましについて
順番が後先になっていますが、焼き入れなどの前に焼きなましという作業があります。
これは、鋼の内部を安定させ歪みなどが生じないようにする為と、各工程前の準備的な作業です。
軟鉄と、鋼(青紙)を付けてバシバシして包丁の形に仕上げて行くわけですが、これらの工程で熱を
加えています。熱いままでは、手に取って作業出来ないので、空冷で冷やします。この時多少ですが
鋼が硬くなります。この硬くなった状態で、ハンマーなどを当てると割れたりするので、包丁暖める事
が焼きなましと言う作業です。この時の温度は、750℃〜780℃とされています。
この時の包丁温度色で言うと暗いオレンジな色だった記憶が・・・。
これをゆっくり冷やす事で、鋼組織が安定します。←誰が発見したんやろ??
ゆっくり冷やす方法ですが、例えば炉の近くに置いて冷やすとか、わら灰に入れるとかです。
冬は気温が低いので、鍛冶屋さんは炉の上に置いていた記憶があります。

焼き入れ⇒水冷! 焼戻し⇒空冷 焼きなまし⇒徐冷 これが焼いた後の冷やし方です。


青鋼の硬度について!

全体的に販売している青鋼の包丁は60HRC以上は確実にあります。
焼き入れした瞬間には65HRC以上になっています。これを焼戻しで61HRC程に戻します。
僕が考える硬度は、63HRCを超えると人造砥石で研ぐのが困難になると思っています。
青紙スーパーなどは焼き入れした瞬間70HRC位まで硬くなるようです、それを焼戻しで
65HRC〜68HRC位までに硬度を落とします。この硬い素材を効率良く研ぐ事だけを考えれば、
ダイヤモンド砥石が非常に有利になってきます。最近のダイヤモンド砥石は結構良いです!
しかし、個人的には普通の石が好きです! 


青鋼の素材別特徴と、火造り、硬度、焼き入れ、焼戻し、を説明してきましたが、鍛冶屋さん
刃研屋さんによって、色々変化します。あくまでも基本的な部分を説明したに過ぎないので、
「青一鋼はAとBがあって、こんな特徴なんやなぁ〜」っと言う感じで、包丁を購入する時など
の参考にして下さい。もし宜しければ酔心にご注文下さい。最良品をお届けします!←営業!

次回は白鋼に行きます。白鋼と合わせて黄鋼も一緒に特集します。
タマハガネに近い素材はコレだ!! 白三鋼よりも黄二鋼の方が品質が上??っと言う感じで!!

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