2003年6月期

九州は今日から梅雨入り、近畿は明日から梅雨入りになりそうな、夕食後の青木達哉です。
梅雨になると、包丁に気を使う時期になりますが、食中毒系も心配な時期です。
皆様、くれぐれもご注意下さい。(食中毒を出すと営業停止とかになりますもんね!)

さて6月の特集は、包丁の硬さです。濃い内容で、こだわり的な事柄が多いですが、
興味がある人には、「おお〜なるほど!」の内容だと・・思います(^^)/



「軟鉄にも色々あるんだね!」

鍛造包丁は軟鉄と鋼を鍛接して、造られています。
軟鉄は一種だけでなくて、硬い物と柔らかい物があります。
どないに違いが出るのか?ですが、柔らかい軟鉄で鋼を支えると
鋼が軟鉄を引っ張り、裏側に曲がってくる可能性があります。
硬い軟鉄を使うと、鋼と引っ張り合い裏にも表にも曲がらないシャッキとした包丁を持続できます。
軟鉄が柔らかいメリットは、研ぎ易い事! 硬いとやや研ぎにくくなると言う事です。
研ぎにくいと言う表現をすると、「ダメじゃねぇ〜か!」となりそうですが、チャキチャキの
格安ステンレス包丁のような研ぎにくさとは異なり、柔らかい軟鉄よりも研ぎにくい感じです。
本焼包丁と一般的量産鍛造包丁の間くらいの研ぎ感でしょうか・・・。
軟鉄は焼きが入りにくい炭素量の低い鉄です。しかし、熱して水に入れ焼き入れすると多少は硬く
なります。究極を追求すると、硬い軟鉄を使用して焼き入れを施し、焼戻しで少し柔らかくする事
が良いかもしれません。焼きを戻しすぎると、鋼がナマクラになって切れない包丁になりそうです
が、その切れ味を生かしながら硬質軟鉄を硬くしすぎない、焼き入れ焼戻しをするのと良いと考え
ています。←これは僕の勝手な憶測であって正解では無いです!
ちなみに、硬質の軟鉄は主にハサミを造る時、使用される材料です。ハサミの様に刃と刃を合わせて
切る物は曲がると、切れなくなってしまいますから!

「研ぎにくいと思う瞬間」

上記、軟鉄の種類によって研ぎにくさなどはさておき、今度は鋼も取り込んでの事です。
「硬ったい包丁やなぁ〜」研いでも研いでも刃が付かない!そんな包丁があります。
そんな包丁は、どうなってるの?って事ですが、焼が硬過ぎる、鋼が締まっている、軟鉄が硬い
などの事柄があります。 

1.焼きが硬過ぎるのは製造上の問題!
2.鋼が締まってるのは良い包丁の証
3.軟鉄が硬いのは、根本的な素材の問題です。

1.焼きが入り過ぎている包丁はハッキリ言って研ぎにくいです。ってか研げない!
  和包丁ですと通常の使用方法で即欠けたりします。
  これは和包丁よりも洋包丁に良くあるケースですねぇ・・・。安物の洋包丁とか!

2.鋼が締まっているのは、次の項目で詳しく話します。

3.軟鉄の問題は上記の「軟鉄にも色々あるんだね!」でご理解頂けると思います。


「鋼が締まる?伝統的な製法でしか生まれない硬さ!」

酔心疾風を使用して頂いてるお客様から「今まで使った青二の中で一番硬い、でも粘りがある!」と
意見を頂きました。早速、土井さんにもご報告しました。

土井さんとの会話

達哉>サンフランシスコの疾風を使用して頂いているお客さんから
    「今まで使った青二の中で一番硬い、でも粘りがある!」と言うご意見を頂いたのですが・・。

土井>うちの青二は硬いよ、硬いけど研ぎやすいと皆に言ってもらってる
    研ぎ易と言う事はね、砥石乗りがエエって事や!

達哉>なぜ土井さんの青二は硬いんですか?

土井>うちの包丁はね、低温で火造てっるから、炭素が抜けてないんやね。
    よその鍛冶屋は、高温にして1回で包丁に伸ばしてるんや、うちは低温やから
    叩きまくらな包丁が伸びへんねん。数は出来けへんけど、包丁の為には良いと思ってやってる。
    火造終わってからも息子が、金床で散々叩いてるから包丁が良く締まってるんやね!

達哉>土井さんの包丁は純粋に伝統的な製法で造っているんですよね?
    じゃあ、昔の青二は全て硬い感じがしたんですか?

土井>そうやね、今の鍛冶屋は省ける工程を抜いてしまうんや!そうせな商売にならへんからな
    うちは、親父の時代(土井さんのお父さん時代)から変わってない。
    硬い感じじゃなくて硬いんや! 堺刃物の特徴を言うとね、硬い包丁を造る事なんや。
    硬い包丁は本焼とかがあるけど、あれは仕事にならへんやろ。切るのは鋼やろ?切る部分だけ
    鋼でエエんや。鍛造の方が軟鉄が鋼を持ってるから本焼と同じ鋼の硬さでも鍛造の方が
    刃は強いやろうね、だいたい本焼は研ぐのしんどいやろ?

達哉>粘りはどうなんですか?粘りを出す方法とか・・・?
   
土井>包丁はね、焼き入れで硬くなって、焼戻しで粘りが出るんやね。
    でも、火造り、粗叩きで鋼の分子が細かくなってるからより一層粘りが出るんやろうね。

達哉>忙しいのに手止めてすみませんでした。勉強になりました。

土井>サンフランシスコのお客さんに、一回工場に来はったら色々説明しますと伝えてや!

土井息子>親父、サンフランシスコって遠いんやで(笑)

土井>そうなんか。

達哉>海外ですからね〜。


っと話は延々続きました。ちなみに、この後の話もまた濃厚で興味深い物でした!

話を整理しますと、昔の鍛冶屋さんは昔ながらの伝統を受け継いだ製法で包丁を造っていた。
しかし、堺の鍛冶屋でも最近は機械を導入して量産傾向に。

量産すると言う事は、一日に20本しか出来ない和包丁を50本60本と造るわけです。
能力的には2倍3倍ですが、その分どこかで手を抜く(工程を抜く)事になります。
しかも機械が包丁を叩いたりするわけですから、金槌の当る感触は人間は感じれない。
早く造りたいし、キズ(鍛接不良)などを無くしたい!そうなると温度を上げて一気に鍛造しちゃう!
炭素が抜けて、スカスカになる。きっちり叩かないから鋼は締まらない、粘りは少ない。
と言う状態になってきます。そんな包丁がスタンダードになってる気がします。

(僕も土井さんとの疾風を造り、疾風ユーザーさんからの問い合わせがあって土井さんと話するまで
 包丁ってそんな感じ”硬さや形状”の物だと思ってた。)

極端な話、青二鋼は柔らかい包丁、白二鋼は硬い包丁と言う理念が何処かにありますよね?←僕だけ?
それは、現代のご時世的な見解であって、昔の青二鋼、白二鋼は違ったと言う事です。
実際、過去の柳刃の幅や厚みは変わってしまっています。昔はもっと幅が広かった・・・。
でも今は、幅が狭くそれがスタンダードになってしまった。何故かと言うと、幅が広い包丁を研ぎ込んで
幅が狭くなった状態が最も良く切れて手に馴染むといわれています。(包丁が一番切れる時期参照)
買ったその時既に、その形、その状態の物を皆が望みそれが売れるようになって、スタンダードになって
しまったと僕の知っている職人さんは言います。時代の流れによって変化する事は悪い事じゃないと
思っています。僕だって畳の部屋よりフローリングがいい(^^)でも、畳の良さも分った上でのフローリング
好きでありたいと思っています。イグサの香りは何とも言えない・・・。アロマですよね!

本来包丁はこんなんだったんだよ!といった事をちょっとでも気に留めてくれたらいいな〜と思います。


疾風の特徴まとめ!
疾風は伝統的な製法で作られた包丁です。
青二鋼で硬い包丁、しかし粘りがあって研ぎ易く切れ味が永く続く包丁です。
硬いと研ぎにくい、欠け易いと説明したのに、硬いのに研ぎ易く、欠けにくい包丁です。
僕はこの包丁が現在、最高と思っていますが、実際問題、調理師さんが使い易い物がその人にとって最高
であると思います。もしかすると、これを読んでるお客さんが求めてる本当の包丁かもしれませんし
全然良く無いと思うお客さんも居るかもしれません。ただ、製造側、販売側としては、最高の包丁を
調理師さんに提供できるように、日々頑張っています。 
使用してみないと分からない包丁の不思議です! 興味のある方は是非お求め下さい。←営業です!


今回は、土井さんとの会話を実際に記載してみました、もっと面白くしようと思えば録音して
クリック一つで聞けるのも面白いかなと思っています。でも、録音してるとなると誰しも緊張
しそうですし・・・・。工場で話を聞いてますので、雑音(ベルトハンマーや、換気扇)がワンワン
鳴ってるから、聞きツライかもしれません。 土井さんからのメッセージを見て頂いた方なら
ご理解頂けますよね? 本当は撮り直したいのですが・・ナカナカそんな時間が無いのと、
それだけの為に土井さんに会社に来ていただくのも何か・・・・。 上手く機会を見つけて更新します。


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