2004年6月期

刃物鋼材の荒い細かい??

さて、今回の特集は『刃物鋼材の荒い細かい』です。
一般的な刃物鋼材は、炭素系「青ニ鋼、白二鋼、安来鋼etc」
ステンレス系「スェーデンINOX鋼、国産INOX鋼、銀三鋼etc」があります。
他にも沢山種類はありますが、増やすとややこしくなるので控えます。

まずは炭素系です。「荒→細」の順に並べると、安来鋼白二鋼青二鋼
の順番になります。造る鍛冶屋やその時の材料によって荒細の差が縮まる
可能はありますが、ほとんどの場合この番付けで良いと思います。

青ニ鋼は特殊な素材で、合金になります。故に純粋炭素系で話すと白二鋼
が一番細かい素材と言えるでしょう。白二鋼にクローム、タングステンなどを
混ぜると青二鋼に変身します。

白二鋼は一番ピュアな素材で、安来鋼(黄紙)は不純物を含んだ素材です。
ちなみに、これらの不純物を除いて精製??されたら白二鋼になります。
これに炭素を多く加えると白一鋼になり・・・・・。っと長く続きます(笑)
詳しくは、「鋼のうんちく」をご覧下さい。

で!不純物を多く含んでいる素材ほど、分子が荒くなっています。逆に、
不純物が少ない物ほど、分子が細かくなっています。細かくなっていると
言うよりも、分子結束度が高いと考えれます。要するに、純粋な鋼と鋼の
間に余計な物が入っていると、荒くなってしまうんですね!!
例 ●●○●◎●○●◎●●○◎●●
  ●は鋼、◎○は不純物!的な解釈です。←超ミクロな話ですよ!

ここで刃物切れ味に悪影響を及ぼす不純物の説明!
刃物鋼材を構成してる素材は、炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄です。
この素材で悪影響を及ぼすのは、リンと硫黄です。
リンは全体の0.025%程、硫黄は全体の0.006%程入っています。
これを完全に除去出来れば素晴らしい素材になるのかも知れません!
DATAは堺刃物のメイン鋼材供給会社「日立金属株式会社」から得ました。
ちなみに日立金属は、リンと硫黄を極限に低減させているとの事です。
っと言う事は、他の製鉄メーカーはリンと硫黄が日立より多い可能性が・・。
そもそも日立金属は「たたら製法」などで玉鋼を伝承している製鉄所なので、
その技術が、今も生きているのでしょう!

もちろん、ピュアな素材ほど価格が高い為に包丁の値段も高くなります。
特に白二鋼は、焼きが入る幅が狭いので鍛冶屋の腕がモロに包丁に影響
します。研ぎも本霞研ぎなどになる為、各工程で価格が上がります!

黄紙などは、焼き入れがしやすく鍛冶屋さんも量産できるので、価格が
下がってきます。研ぎも霞研や改良研などになり各工程で価格は下がります。
黄紙はむしろ、不純物を入れて焼き入れ加工性を高めているのかも知れません。

白二鋼は何が良いのか!っと言われると鋭い切れ味が出せると言う事です。
安来鋼の良い点は安価である事と、早く刃が付く事です。

白二鋼は安来鋼に比べると硬いので、砥ぐのに時間が必要です。しかし、
一度綺麗に刃付けを行えば、鋭い切れ味が出せます。天然砥で仕上げると
危険な程の切れ味を発生させます。更に切れ味をソコソコ保ちます。

安来鋼は、意外に早く刃が付くので研ぎが楽です。綺麗に刃付けを行えば
研いだ瞬間のみ、白二鋼に対抗できるかも知れません。しかし、早く切れ止みます。

2つの素材を比較した場合、研いだ瞬間の切れ味は対抗できると書きましたが切
れ味で対抗できても、切り口に違いが出ます。
やはり、安来鋼の方は分子が荒いので、荒っぽい切り口になります。
白二鋼は分子が細かいので滑らかな切り口になります。
これは、二つの包丁で同じ物を切った場合に歴然とした差が出ました。
同じ位切れてるのですが、安来鋼の方が少しザラザラ感があります。
この切れ味の表現は非常に難しいのですが、分かって頂けるでしょうか??
言葉で言うばらば!白二鋼は「ツゥ〜〜」安来鋼は「ツツ〜ツ」って!

結論的に、荒い方が早く刃が付いて細かい方が刃付けに時間が必要です。

補足:白二鋼は、約100%砂鉄で形成され安来鋼(黄紙)は約50%が砂鉄です。
   その差は歴然ですよね!!

注意:「切れ止むのが早いなら、仕事中に研いでまた使用すればいいじゃん!」
    っと言う意見もあるかも知れませんが、研ぐと鉄の臭いが出ます。
    それが食材に付くと、あまり良くないと思います。
    INOX本焼和包丁は臭いが出ない(細かく言えば出てる)特性があります。

青二鋼(青紙2号)B
白二鋼(白紙2号)B
安来鋼(黄紙2号)B
「B」とは甘口刃物を作る為の素材です。「A」っと言うのもあります。
これは詳しく特集でUPします。


じゃあ〜青二鋼はどうなんだ??っとなりますが、先ほど説明した通りに白二鋼に
クロームやタングステンなどを入れると青二鋼に変身します。
クロームは粘りを出します。粘り=長く切れる要因になり、靭性を高めています。

このクロームやタングステンは言わば不純物になるのですが、これを入れる事で
より良い刃物鋼材を生み出しています。青二鋼は合金になります。
青ニ鋼と白二鋼を比べた場合、青ニ鋼の方が分子が細かくなっています。
更に、白二鋼よりも粘りがある為、長く切れます。(切れ味落ち率が低い)もちろん
分子が細かいので切り口などは滑らかになります!
更に、白二鋼よりも研ぎ易すくなるので研ぎが少し楽になります。

ここで青二鋼の特性ですが、シャキンっとした刃が付きません!
要するに甘い感じになります。でも切れます!これを甘切れ味するなどと
表現したりします。ただし、クロームを入れた為に少し滑る感覚が出ます。
「すべる」と言うよりも「なめらか」になると言った方が解りやすいかも!
そして白二鋼は噛みつくような鋭い切れ味が出ます。

コレ以上素材について突っ込むと大変な事になりそうなので、控えますが、
荒い方が早く刃が付く!細かいほど刃付けに時間が必要。しかし、細かい
素材でも青二鋼になると砥石乗りが良くなります。

車で例えると!白二鋼は峠仕様の車です。鋭くコーナーを攻める事が可能ですが
サスペンションなどを交換しているため普段の乗り心地は良く無い!
青二鋼は高速仕様の車です。アリストやマジェスタ系で早く走る能力を持っていて
乗り心地は最高。白二鋼ほど鋭いコーナー攻めは出来ないが、それなりの対応力を
秘めている感じです。なめらかにコーナーを抜けて行く系です!
ちなみに安来鋼(黄紙)は、コンパクト系(フィット、ビッツ系)ですね!
買い物程度で走るのに問題なし!燃費も良くて車両の価格も安いし、扱いやすい!
僕はそんなイメージを持っていますが・・・みなさんはどうでしょう?

上記の状況は、使う砥石や包丁本体の状況によっても変わってきますのでご理解下さい。

ステンレス系について!
続いてステン系「スェーデン産INOX鋼、国産INOX鋼、銀三鋼etc」です。
サビに強い素材とは、クロームを13%以上含んだ素材です。
「青二鋼にもクローム入ってるやん!」っとなりますが、全体の0.5%程しか入っていないので、
靭性を高める為の付加的なクロームになります!
ステン系にも荒細があります。上記の例に上げた3種を細かい順に並べると
スェーデンINOX鋼→銀三鋼→国産INOX鋼になると考えています。
INOX鋼には結構種類があり、素材によっては順番が少し異なるかもしれませ
んが、スェーデンINOX鋼が最も細かいと言っても問題ないと思います。

スウェーデンINOX鋼
銀三鋼
国産INOX鋼

和鉄(青鋼、白鋼)と同じで荒い方が早く刃付けが出来ます。早く刃が付くと感じる!
っと言った方が良いかも知れません。荒い素材ほど「キキッ」っと噛むような刃が付きます。
細かい素材は少し滑るような感じの刃が付きます。滑る感覚が生まれるのはクロームが
原因かもしれませんね!噛むような切れ味を出したければ、粗い砥石で研げばキツイ
切れ味が出ます。切り口を気にしなければ、中砥#2000程でキキっと噛みます。
家庭の奥様に研ぎを頼まれた場合、少々荒めの方が切れてる感覚を味わえるので良いかも!

和包丁で説明すると、炭素系の場合は裏押しでチリチリ返りが取れますが、ステン系の場合、
裏押しでチリチリが取れにくい傾向があります。
クロームによって粘りが発生している為で、チリチリが粘り強い為なかなか取れてくれない。
目で見えるチリチリが取れても密かに残っている可能性があります。
これが取れていない状態で切りに行くと、「切れへんやんけ〜〜」っとなります。
このあたりは刃物鋼材の特性を知ってると、サビに強い素材を上手に使いこなせます。
鋼の包丁に慣れている方ならば、「めんどくせぇ〜」っとなりますが、研ぎをこなせば!最近の
ステン系は結構ヤバイ切れ味が出ます!
寿司屋さんなどには絶対お薦めです。←酔心INOX本焼和包丁お勧め!!!!

で!もちろん細かい素材でピュアな素材ほど高価になり、価格もグンと上がります。
また熱処理方法などによっても価格が変わります。手を入れれば入れる程高くなってしまうんですね! 
サブゼロ処理とか!!

特に洋包丁は、製造工程や加工が一連した作業によって行われる為、ハッキリした価格が出ます。
和包丁は同じ青二鋼でも職人が違えば価格が変動します。
高い方が良いと考えて間違い無いですが、暴利な所もあったりするので注意!
そもそも包丁は「コレいいですよ〜、よく切れますよ!」っと言っても使えばスグ解ってしまう商品なので、
下手に営業をすると違いの解る人から見れば、「ふ〜〜ん!こんなもんか!」っとなるので、やりがいの
ある商品であると共に恐い商品であると思います。

「刃物鋼材の荒い細かい」についての結論は、荒い方が刃が付きやすいが、
切れ味がザラザラする。細かい方が刃付けに時間が必要だけど、切れ味が滑ら
かで切り口も美しいと言う事です。

注意!初心者が一番感じる「良く切れる」状態は、刃先がザラザラで引っ掛かりが
    多い包丁です。イコール黄紙系になってしまいます。 
    鋸は荒目の方が良く切れます!その感覚です。



しかし、それが全てでは無くて焼き入れ硬度や職人の腕、研ぎによって変化し
ます。これらを安定した状態で製品造りをする事が酔心の役目になります。
当りハズレの無い製品作りです。当りはあっても、ハズレは駄目ですからね!

今回の特集は結果的に、素材の特性などになってしまいました(^^;
「鋼のうんちく」特集を以前してから、僕の知識が各段に増えています。
次回から、鋼全体の特集では無く、青二鋼なら青二鋼を徹底的に特集して、
みようかなと思っています。一つの素材で結構語れるのではないでしょうか!

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