2008年10月期「焼き戻し」
 



日々修行のブログがあまりにも便利で、そちらに甘えがちだったので
特集を更新しておりませんでした。。更にお料理の楽しさを覚え。。
しばらくそちらへ旅に出ていました。庖丁屋として、リアルに庖丁を
使う事で解る事が多く出てきたので、今後にかなり生きるかと思います。


久しぶりの特集は、焼き戻しについてです。
過去に書いた事があるかと思い、過去記事をチェックしてみましたが、
深く書いてなかったので、新しく書いてみようと思います。


庖丁にとって焼き戻しはとても重要な作業です。
和庖丁に限らず、洋庖丁も焼き戻しは必ず行われています。

鋼が庖丁になる為?硬度を得る為には焼き入れをしなくてはなりません。
それぞれ鋼材によって、焼き入れ方法は色々あります。
水焼、油焼、電気、ソルト、空気・・・。。鋼材に適した焼き入れを行います。

これによって硬く鋭い庖丁になりますが、このままではガラスのように
モロい庖丁になってしまいます。水本焼だったら落とせば割れるかも・・。

それを防ぐ?調和?緩和するために、焼き戻しをします。
この焼き戻しによって、粘りがあり長く切れる庖丁となります。

ここまでは、一般的な事で専門書を読めば書いてます。
過去の記事にも書いていました。




ここから深く掘り下げます。

鋼の性質は、焼き入れで硬くなり焼き戻しで粘りが出る。これは鋼の性質です。

単純に、硬い庖丁を作りたければ、焼き戻し率を少なくすれば硬い庖丁になります。
しかし、脆くなってしまう危険性があります。この危険性をなくす為には、しっかり
叩いて粘りを出す方法がありますが、焼き戻し率が低い鍛造庖丁は鋼側に曲がってきます。
(叩いて締めて粘りを出しても、そもそもの鋼の硬度は硬いままなので、鋼側に引きます。)

軟鉄は、焼き入れ焼き戻しの影響を受けない(受けにくい?)低炭素量なので硬くならんのです。
鋼のみがモロに影響を受けるので、焼き戻し率が低いと硬い鋼に引っ張られます。


これが、庖丁が動く(反る)原因です。


庖丁が動かない(反らない)ようにしたければ、焼き戻しを多く掛ける必要があります。
戻しを多くすれば粘りが出て曲がりにくい庖丁にはなりますが、硬度が失われて切れ味が甘くなります。


しかし、焼き戻しを少なくした庖丁の中でも数年経っても動かない庖丁が存在します。
この庖丁は最高で素晴らしい!超一級品だと言われます。
その理由を紐解けば、完璧な焼き入れと焼き戻しのバランスだからです。
しっかり硬く、鋭く、しっかり粘りがあり永切れする庖丁となります。



ここで、焼き戻し具合の話をします。

今現在は、正確な温度管理の元で焼き戻しが出来る機械があります。
いわば、意図的に「完璧な焼き入れと焼き戻しのバランス」を取る事が出来ます。

その機械は、焼き戻し専用なので、それ以前に完璧な焼き入れが出来ていての話です。


この機械が無い時代は、炙り戻し(焼き戻し)焼き入れした後直ぐに、炭の上に乗せ
炙って焼きを戻す方法が取られていました。 これは完全に勘と経験の世界です。
焼きが多く戻ってしまうと、切れ味が低下するので、必然的に戻しが少なくなります。



炙り戻しの庖丁が、鋭い理由はココにあります。
これで、ギリギリのバランスを取る事が出来れば、最高級な庖丁となります。

焼き戻し機を使った場合、先に言ったように完璧なバランスを得る事が可能です。
これが、使い手にとって良いのか悪いのか、解りませんが、鋼の組織はこちらの方が
良いと事は科学的に証明されています。
(ただ、科学的に良い分子構造と証明されていても、それが庖丁に最高とは言いがたい・・)


おお〜〜焼き戻しって素晴らしいじゃね〜か!
そう思った方も居られると思います。

しかし、これはこれで落とし穴もあるんです。
さっき話したように、鋼は焼き入れで硬くなって焼き戻しで粘りが出ます。

鋼の板を庖丁の形にして、焼き入れして焼き戻しすれば庖丁になるんです。
そういう事なんですが、その作業に行くまでの工程で手を抜く事ができます。

しっかり叩いて粘りを出した庖丁を焼き戻し機で戻せば最高に良い状態になるのですが、
叩いての粘りではなく、焼き戻しを多めに掛けて粘りを出す方法もあるのです。


すごく便利なマシンなのですが、、、そういった使い方をした場合は、製造効率的には最高!!
かも知れませんが、多くの庖丁を使って来た方には「???」なんかちがうで・・と解るハズです。


その違いを最も知る事が出来るのは刃付け屋さんです。
大きい水円砥で研いでたら蛇のように蛇行した庖丁になってくるそうです。
言えば、叩いた庖丁と叩いていない庖丁の差が、完璧な焼き入れと焼き戻しをしても
現れると言う事になります。


焼き戻し具合は、目で見て解るものでは無いので、使って感じるしかありません。
理論がましく書きましたが、そういう事なんだと思って頂けたらと思います。




第弐幕特集TOPページへ