2009年02月期 「出刃の実践研ぎ」
 

出刃包丁の実践研ぎ


実際に使ってみた感覚を元に、出刃包丁の実践研ぎについて考えたいと思います。
出刃にも色々あるのですが、ここでは基本的な出刃をモデルに進めてゆきます。

出刃包丁の用途は、魚を捌くことにありますが、その考え方も色々あって、
割る事が出来ればいい。 開く事が出来ればいい。 など様々です。
どちらかと言えば、出刃よりも柳刃包丁に重心を置く調理師さんが多いかも知れません。


それはそれとして、、、
一本の出刃庖丁で快適に捌きが出来る実践研ぎについて書こうと思います。
賛否両論あると思いますが、ご参考までに!

■実践研ぎに思う事■


矛盾した事を書きますが、庖丁は切れ過ぎない方がいいです。

「はぁ?」 っと思う方も居られるかと思います。

高価な庖丁は切れるように思われますが、ある一定のラインを超えると、そこそこ切れます。
酔心魁シリーズの出刃は白三鋼で霞研ぎで、酔心が扱う出刃の中では廉価な部類に入ります。
これ、、しっかり研いで使えば、かなり切れます。


安いのと高価なのは何が違うのか!と言えば、切れる味(具合)研ぎ易かったり、切れ味が
落ちなかったりきっちり研がれている(シノギが綺麗に立ってる、裏スキが良い)
切れると言う以外の付加価値で高価になってるのだと最近は感じています。


それだけの違いを得るためには、職人さんの手間がかなり掛かってくるのですが、
たった一発切るだけなら、極端な話すれば全部同じくらい切れると思います。


話を戻して、切れ過ぎない方が良いと言う考えですが、切れ過ぎると切れてしまうからです。


1.切りたくない所まで切れてしまう。(魚の状態と多少腕の問題も有るかも!)
2.思ってる以上に切れると逆に失敗する恐れがある。(勝手に刃が進んでしまう)
3.当然のように上手く捌きたいから、切り方を調節する事になる。
4.切ろうとするのを止めながら切るから疲れる!


こんな感じでしょうか。。 妥協無く鋭い切れ味を求めて研ぎ込むのも一つの意気込みですが、
ある程度の妥協?甘え?許しがあるグレーゾーンを残した研ぎが実践本刃付けにはあると思います。
これは、出刃庖丁に限らず、柳刃庖丁にも言える事だと思います。薄刃は別かな・・・。


出刃の実践研ぎと言うと、ギンギンに鋭い状態を想像しますが、実際のところは上に書いた事が
仕事で使う上での実践研ぎと言う見解となりました。



日々修行ブログでも既に特集気味で紹介しましが、理想とする実践研ぎの概要だけご紹介します。

 


写真は、出刃実践使用を想定した理想の状態です。
切刃の中にシノギをもう一個あって刃先には強めの糸引刃を入れてあります。

切る瞬間は、鈍角の直刃ですが、切った後は開き過ぎない方向へシフトさせている感じです。

シノギ筋から刃までの距離(切刃幅)が狭いと、鈍角になって刃が非常に強くなりますが通りが悪くなります。
強い状態を保つには、刃先周辺だけを鈍角に保ち、そこから先でそれ以上切り開かないようにする事で、
強度と抜けの両立を図る事が出来るのだと思います。


この写真の出刃は、真鯛を捌いて欠けたのを修理した物ですが、個人的に普段から真鯛を捌く機会が
無いので、先はシノギ筋から刃先までは、緩いハマグリ刃を付けてある状態です。

アジやサバなど身割れし易い魚?を捌く事を想定するならば、このように先、中間、元と違う形状の刃を
作る事によって、一本の出刃であらゆる事に対処出来るように思います。


名だたる調理さんの柳刃庖丁を見た事がありますが、これと同じく1つで庖丁に2つ3つの作業が出来る
研ぎが施されていました。 これは、使う本人が自分で研がないと、使いにくいと思います。


右の写真は、師範より預かった時の切刃状態です。
この出刃もシノギを上げて、段刃を作り直しました! 

 


これは、やっぱり先抜け状態は自分に早い!と思ったので、先にも幅の狭い段刃を作った状態です。

何が早いのか! 先を抜くと切れ過ぎる(どんどん入っていく)ので余計な所を切ると思ったからです。
この庖丁はMy庖丁なので、捌きに関して素人同然の自分が使い易いように研いだ実践研ぎです。

この先の段刃による鈍さで自分の弱点を克服する!(角度や動かし方を解っていない弱点)
そういう思いがある訳です。 結果的に、綺麗に捌ける事を目標としているので、自分はコレ良い!

魚に触れる回数が多く手馴れている方でしたら、狙った部分に狙った角度で庖丁を入れる事が出来る
と思うので、人によっては余計な段は必要ないかも知れません!

この辺りはそれぞれの実践研ぎで!


この手間の出刃、上田師範の出刃で僕が試行錯誤の上で研ぎました。
右の写真が、預かった時の状態ですから、シノギを上げた事になります。

しかし、刃先は預かった時の状態を出来るだけ維持しつつ、シノギを上げ段刃が見えないように青砥で
研いだ状態が、左の写真です。 「段刃、見えてもエエやん」 っと思われそうですが、その辺はコダワリ
ですね! 格好良くしたかった、、それです!

生意気にも、使い方はそのままに庖丁が抜けて行く事を目指した研ぎです。
上田師範が今まで通りの勢いで使える事を思いながら研いだのです。
使い方や使っているのを見ているので、想像しながらの研ぎでしたが、結果は高評価を頂きました。
知っているから出来る研ぎでもありますが・・・。



有名な「研ぎ師」と言われる方は、この辺りを想像、想定して最適な研ぎを行われるのだと思います。



今回は出刃庖丁の実践研ぎと言う事で、強度と切れてから抜けるまでの角度(切り抜け)具合に
ついてをご紹介しました。 禁断の切れ過ぎないと言う事も書いてしまいましたが、これは僕個人が
感じた事、上田師範より教わった事、魚屋卸しの方から聞いた事などを元に思った事です。

鋭さをより追求した、青二鋼水本焼の出刃もある事を思えば、それを求めている調理師さんも居られる
と思っています。 そちらも実践研ぎだと思いますが、今回の実践研ぎ特集も参考にして頂ければと思います。

 

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