2010年5月期 「正夫と柳刃」
 




刺身包丁には種類があって、柳刃、タコ引、先丸タコ引、専用包丁ですが、ふぐ引も刺身を引く為の包丁です。

その中でも、柳刃包丁には二種類? あって、柳刃(柳葉) 正夫(菖蒲)があります。(葉っぱの形状で例えてるそうです。)
どちらも同じような感じですが、若干の形状違いやシノギの立て方、購入してからの研ぎ方が異なってきます。

包丁は道具なので、調理師さんが使い易いような形を要望し、それを職人が形状に工夫を加えて徐々に形状が
変わってきたように思います。 
今でも、多くの要望があるので、軸はずれないけれど、数十年経てば標準的な形に進化するかも知れません。


補足: 正夫は「正武」が正式と聞きました。本文では正夫で通してます。 


さて本題です。

柳刃包丁は、切っ先アールがあるのが特徴です。
このアールがある事で、刺身を引くだけの専用包丁から、少し多様な作業に使える包丁になったのでは??
っと考えています。 これは、僕個人の憶測ですが、柳刃があればアールを使って刻んでみたり、細巻きを寿司切り
を使うのと同じような要領で切る事が出来たりもします。 柚子の皮とか、アール使って押し切りしてるのを見ました。

もちろん、刺身を引く時にアールを使って切って行くっと言うのもあるかも知れません。


職人さんの話を聞くと、柳刃は後発は感じで昔ながらの刺身包丁は正夫だったようです。


職人さんのほとんどが、伝票には柳刃と書かないで正夫を記載しています。
もちろん、見積もり表にも正夫(刺身包丁)などど書かれている事で、なんだか納得できます。
(それでも、仕上がってくる製品の形状は、柳刃なってます。妙ですね^^)


左が正夫の切っ先部分。   右が柳刃の切っ先部分。


正夫包丁は、切っ先アールの率が非常に少ないのが特徴です。
それに伴って、シノギ筋も真っ直ぐに近く研ぎ上がっており、長細い鎌形薄刃のような形状をしています。
完全に刺身を引く事だけをメインにした包丁かも知れません。刃先だけを見れば蛸引などと同じような印象を受けます。



てっさ専用包丁としてのフグ引も、正夫系の形状をしているのが基本になっています。
この包丁こそ、特化された形状や厚みであり薄く引く為の工夫が加わった包丁と言えるでしょう。


専門色の強い和包丁の中で、正夫が柳刃に進化?した事には、使用方法の変化に従事しているようにも思います。
道具ゆえに、より便利に一本で専門的ではないけれど、ちょっとした切り物ならOKだよ!!って感じかも。。



そんな事は、もしかしたら何処かに既出しているかも知れませんが、、、、。。



ここで注目したいのは、形状の違いだけではなく使う人の研ぎにも大きく影響を与えるのでは??っと!!
研ぎに関しては、特集で多く取り上げていますが、ハマグリ刃や直刃、糸引刃など様々な研ぎ方があります。
もちろん、この研ぎにも好みがあって、「直刃じゃなきゃ やだ〜〜」っと言う方も多くおられます。


柳刃包丁のように切っ先アールがある包丁で、直刃を目指すとアールは無くなり尖った形状になっていきます。
この尖ったような形状が好きならば問題ないのですが、こんな風に減るのもなぁ〜って思う方も居られると思います。


そんな方にオススメしたいのが正夫包丁です。 切っ先アール率が極めて少ないので切っ先が急激に尖る事なく
切り刃を広く維持する事ができます。また研ぎ始めから研ぎ上がり(本刃付)が非常に早く行えます。
切っ先アールを研ぐための神経が必要ないからです。 平面の砥石で研いでおけば、薄刃のようにペタ〜っと
当たり出すのが早いと言う事です。


補足:基本的に包丁元から切っ先に向かって細くなっているの包丁がほとんどなので、結果的には切っ先はゆっくりと
尖ってきます。いつまでも同じ切り刃幅を維持できる訳ではありません!ただ、、直刃に研ぎ易いのが正夫って事で!



実践的な話をすれば、切っ先が尖って切り刃が狭くなる事により包丁の抜け向上を考えた場合、余計な御世話!!
なのかも知れません。 切り刃が狭い抜け重視を考えると、タコ引きのように幅が狭く切り刃も狭い包丁が有効なのも
理解できます。


話を戻して、、現在の刺身包丁(柳刃、正夫カテゴリー)では、圧倒的に柳刃の形状が多いように思います。
酔心も、ほとんどが柳刃の形状になっており、特別なオーダーが無い限り正夫系を酔心既製品として製造することは
ありません。 在庫の中で古い庖丁は存在するかもデス。。


良く似た形なんだから、「俺が研いで形状を変えてみよう〜じゃね〜か!」っと思われるお客さんも居るかもですが、
鍛冶屋が基礎から作らないと、「柳刃」「正夫」としての利便性?特徴を出す事は難しいですし、それを研ぐ刃研職人も
形状の意味を理解して研がないと、なんだか良く解らない包丁(中途半端な)になってしまいます。



正夫を研ぎこんで、一分減って切刃幅が狭くなった頃が良さそうに思うのですが。。。
最初から、使い込んだ形に近く仕上げられた柳刃も、研ぎ方次第では、とても良いと思います。


さて、あなたは? どっちの形状がお好きですか??


第弐幕特集TOPページへ